研究概要 |
本年度は(1)鮮新世中期(300万年前前後)における対馬暖流の流入を把握するため,日本海沿岸に分布する地層中の浅海性貝形虫化石群集の種構成を明らかにすること,および(2)これまで得られた内湾性貝形虫に関して,総括し,対馬・朝鮮海峡の存在がどの種群の分散に影響を与えたのか明確にすることである。(1)については,今年度新潟県新発田市に分布する鮮新統鍬江層の調査を行い,試料を採取した.また,同時代の暖流系群集を明確にするために,宮崎層群佐土原・高鍋層からも貝形虫化石用の試料採取を行った.結果として,鍬江層ではBairdoppilata sp.のような暖流系の上部浅海帯群集に属す種が多産したが,他の暖流系種は少なく,中部浅海帯以深の暖流系種はHirsutocythere hanaiiが産出したにすぎなかった.群集の大多数は冷温帯系種や絶滅好冷性種によって占められていることがわかった.このように暖流流入の可能性は高くなったが,その厚さは薄かったと推定される.(2)に関しては,長崎県大村湾および対馬の現生内湾性貝形虫についてデータをまとめ,中国・韓国の内湾群集との比較を行った.結果として,中国・韓国の内湾の優占種のうち,Neomonoceratina dongtaiensis, Bicornucythere sp.GやBicornucythere sp. P(入月・渕川,2007)は対馬生息していないことがわかり,前年度予察的に結論を示したように,朝鮮海峡が移動の障壁になっていることが明確になった。これらの種は更新世でも日本から報告が無いことから,少なくとも日本と韓国の間に陸橋が有ったとされる海洋酸素同位体ステージ12よりあと,朝鮮海峡が障壁となり,分散の妨げになっていると推定される.
|