研究課題
基盤研究(C)
伊豆-小笠原弧衝突境界外縁地域(南部フォッサマグナ地域)には、通常稀な数センチ大のクロム透輝石巨晶を含む玄武岩〜玄武岩質安山岩脈が特徴的に発達する。この巨晶はその組成からマグマ発生初期にマントル浅部で結晶化したと考えられ、内部に多数の初生ガラス包有物を含む。従って、それら包有物の水濃度を分析すれば、島弧での衝突境界に固有のマグマ形成とその含水条件を推定できる。そこで、透輝石巨晶を含む火山岩脈の分布を調査し、巨晶中のガラス包有物の水濃度を新たに開発した陽子弾性散乱同時計測法で分析することで、衝突境界でのマグマ発生を考察した。調査の結果、丹沢山塊、御坂山塊、櫛形山山塊、富士川流域にクロム透輝石巨晶を含む玄武岩や玄武岩質安山岩が発達していた。これらは6 Ma〜16 Maの溶岩ないし岩脈である。これらの巨晶のガラス包有物の水濃度を測定した結果、いずれも約3〜4 wt.%の水が含まれていた。この濃度は、背弧海盆や島弧の玄武岩〜玄武岩質安山岩の急冷ガラスやガラス包有物の値よりも高く、クロム透輝石形成時の上部マントル浅部にはやや多量の水が供給されたことを示す。また、6Ma〜16Maの地層や岩脈にのみクロム透輝石が産出することは、その時期にマントル浅部に大量の水を供給するイベントがあったことを示唆し、おそらく島弧や陸塊同士の衝突に関連するものと推定される。それらとほぼ同時代の同地域の玄武岩に含まれる普通輝石のガラス包有物の水濃度は約1wt.%であることから、この水供給はやや局所的なイベントであったことが推測される。おそらく、特定の断裂に沿ったマントル最上部への海水の直接侵入などと関連するのであろう。
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