研究概要 |
前年度において,新しく導入した加熱AFM法を用いた粘土鉱物の温度60℃前後までの溶解その場観察法の確立に伴い,本年度は,主に,アルカリ性条件下におけるスメクタイト及び白雲母の25℃〜50℃での昇温溶解実験を実際に試み,両鉱物の溶解速度・溶解機構の比較を行った.その結果,以下のような新たな知見が得られた: (1)温度25〜50℃における白雲母とスメクタイトの溶解反応は同じであった.両鉱物の溶解は端表面のみで起こっており,端表面積で規格化した溶解速度が本質的な溶解速度である.一方,壁開表面は見かけ上溶解反応に寄与しておらず,総表面積で規格化した溶解速度は粒子あるいはピットの大きさに依存して変動する.(2)白雲母の溶解速度は約5時間前後で異なる.初期は,ラフな端表面がクリアな面に変化する時期で溶解速度が10^<1〜2>速く,後期は定常溶解期に属し溶解前線面が一定速度で後退し,溶解速度が遅い(3)両鉱物の溶解の活性化エネルギーはほぼ等しい(pH11.8で54kJ/mol).また,活性化エネルギーのpH依存性も等しい.(4)温度効果とpH効果を考慮した白雲母のモデル溶解速度式は実測値と近似的であり,モデル式の信頼性を検証した.(5)スメクタイトの溶解反応において,端表面でも溶解速度の異方性が認められた({110}>{010}).これは{110}表面にのみ存在するSi-O-Al結合の切断が反応速度をコントロールすることに起因する,と考えられる. これらの研究成果の一部は,国際鉱物学連合や日本粘土学会などの国内・国際学会で発表するとともに,国外の学術雑誌(American Mineralogistなど)に公表した.
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