本研究では、ポテンシャル面を解析関数にフイッティングする事無しに、各時間で全エネルギーおよび全原子核上のエネルギー勾配を計算しながら反応軌跡を時間発展する方法(ダイレクト・アブイニシオ・ダイナミックス法)の開発およびその反応系への応用を目的とし、以下の研究を遂行した。テーマとして「クラスターのイオン化ダイナミックス、および電子捕捉ダイナミックス」および「S_N2反応へのクラスター場(溶媒分子)の効果」について研究し、その反応メカニズムの解明、および実験計画の指針となるモデルの構築を行った。具体的な研究成果を以下に示す。 1.クラスターの光イオン化(および電子付加)ダイナミックスの実時間追尾 水クラスターのイオン化過程および電子捕捉過程を、ダイレクト・アブイニシオ・ダイナミックス法により理論的に研究し、1)反応チャンネルを支配している因子の解明、および、2)これらの反応チャンネルを制御する方法の開発を解明した。特に、水のイオン化の初期過程では、イオン化された1つの水価カチオンのプロトンが隣接する水分子に引き抜かれて、水酸気基イオンになり、その後、周りの水分子の再配向が起こることを明らかにした。水クラスターの電子捕捉過程では、表面状態溶媒和から、内部へ徐々に捕捉されていく過程が存在することを明らかにした。 2.S_N2反応へのクラスター場(溶媒分子)の効果 S_N2反応(OH^-+CH_3Cl)への溶媒効果を理論的に研究した。この反応の生成チャンネルとして、3体解離(CH_3OH+Cl^-+H_2O)、ハロゲンの水和(Cl^--H_2O+CH_3OH)、およびCH_3OHの水和の3つの反応チャンネルがあることを明らかにした。さらに、それらの反応チャンネルは、衝突前の水分子の位置により、支配されていることを明らかにした。また、それらのチャンネルの分岐比が衝突エネルギーにより、大きく変化することを理論的に予測した。
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