電子対密度関数は、原子・分子における電子対の相対運動と全体運動を直接に把握する重要な密度関数であるにもかかわらず、今日まで、それらの理論的構造の検討も化学的応用も十分なされていない。本研究課題の目的とするところは、二つの電子対密度関数の理論的構造を解明し、これらを積極的に量子化学の問題に応用することによって、原子・分子の世界における電子の運動を新しく二体問題の観点から理解することである。また、これらの研究を慣例的な位置空間だけでなく運動量空間からも進め、統一的に電子対の運動の理解を深めることである。 本年度は、電子対密度関数の理論的研究の成果として、以下の結果を得た。 1.電子対密度関数の観点から平均電子運動量を考察すると、これが低運動量と高運動量の二つの成分から構成されることを見出した。これらの成分が原子とともにどのように変化するかを明らかにした。また、低運動量と高運動量の差と和が、それぞれ、相対運動量や質量中心運動量の下界と上界になっていることを示した。 2.電子対密度から得られる電子の内半径と外半径の差と和が、それぞれ、電子対相対距離や質量中心半径の下界と上界になっていることを示した。また、これらの束縛度の原子依存性を考察した。 3.運動量電子密度が低運動量電子密度と高運動量電子密度の二つの成分からなることを見出し、これらの特性を明らかにした。また、これらの成分密度の極大値と原子の殻構造との関連を議論した。 4.電子対密度の理論構造に基づき、電子間反発エネルギーの電子間角度依存性を示す一般式を導出した。ヘリウム原子に対して具体的に電子間反発エネルギー密度を例示しその特性を議論した。
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