電子対密度関数は、原子・分子における電子対の相対運動と全体運動を直接に把握する重要な密度関数であるにもかかわらず、今日まで、それらの理論的構造の検討も化学的応用も十分なされていない。本研究課題の目的とするところは、二つの電子対密度関数の理論的構造を解明し、これらを積極的に量子化学の問題に応用することによって、原子・分子の世界における電子の運動を新しく二体問題の観点から理解することである。また、これらの研究を慣例的な位置空間だけでなく運動量空間からも進め、統一的に電子対の運動の理解を深めることである。 本年度は、電子対密度関数の理論的研究の成果として、以下の結果を得た。 1.2個の電子を同時に考えることにより、多電子原子の動径密度関数は、内密度関数を外密度関数とに厳密に分解されることを示した。したがって、電子-原子核引力エネルギーや反磁性磁化率のような動径的性質は、内密度と外密度の寄与の和である。電子間反発エネルギーは、外密度の-1次のモーメントと近似的な関係を持つ。ヘリウムからローレンシウムまでの102個の基底状態の原子について、動径密度、内密度、および外密度の異なる極大値特性を数値的Hartree-Fcck計算により明らかにした。 2.ヘリウムからローレンシウムまでの102個の基底状態の原子に対して、異なる副殻に属する二つの電子の間の運動量空間における角相関係数を調べ、いくつかの一般的特性を報告した。 3.電子対密度関数の観点から副殻の平均電子運動量を考察すると、これが低運動量と高運動量の二つの成分から構成されることを見出した。これらの成分が原子とともにどのように変化するかを明らかにした。また、これらの値が二重指数近似における軌道指数と良い線形関係を持つことを見出した。
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