研究概要 |
幾何位相効果を利用した分子内量子もつれの制御および新規の分光法の理論提案を行った.分子内に生成した振動波束はポテンシャル面の非調和性のために非常に強くもつれ合う.特に,ポテンシャル交差点付近では電子との強い相互作用のために振動波束の位相は大きく乱され,有用な情報を得るのは困難である.ところが非断熱遷移が円錐交差により引き起こされる場合,幾何位相効果のため,振動状態と電子状態とのもつれの違いを光解離生成物の観測により高感度で測定できることを明らかにした.円錐交差点前後で,断熱遷移(非断熱遷移)のために振動波束には位相反転が生じる(生じない).幾何位相効果に由来する振動波束の構造の違いが解離生成物間の分岐比の違いとして現れるために,容易に検出できる. また,分子内だけでなく環境体とも量子もつれが生じる場合の"分子内量子もつれ"の緩和機構を最適制御シミュレーションで明らかにした.方法論開発に関しては,超高速緩和で重要な非マルコフタイプの緩和を取り込む方法を提案した.我々の提案したアルゴリズムは2つのパラメータで特徴付けられた単調収束を保証する.簡単なモデル系を用いた評価ではあるが,数値精度限界(16桁)に近い精度(典型的には10桁以上)で,解を探索できることを示した.これを応用して,表面ダイナミクスでの制御シミュレーションを行い,2種類の異なった量子もつれの競合がある状況下での選択励起機構を解析した.位相整形した赤外パルスを照射することで,吸着分子の分子内振動を高い確率でコヒーレントに励起できることを示した.
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