本研究では、星間空間で重要とされる炭素原子と炭化水素分子の反応について、反応動力学的な立場から理論研究を行った。まず炭素原子とアセチレンの反応については、2つのモデルを用いた理論計算を行った。第一のモデルではポテンシャルの入り口のみに着目した3つの自由度のみを考慮した。ポテンシャルエネルギー曲面を密度汎関数レベルの量子化学計算から求め、全反応断面積を量子散乱理論を用いて計算した。その結果、実験と一致する衝突エネルギー依存を得ることができた。またアセチレンの回転状態が反応断面積にほとんど影響を与えないことを見出した。第二のモデルでは、反応の生成物を特定するために、第一のモデルと異なる自由度を考慮した理論計算を行い、生成物の分岐比を求めた。この反応では、星間空間で検出されている環状および鎖状のC_3Hラジカルが生成するが、我々が提案した本モデルでは、環状のC_3Hラジカルが主として生成することを見出した。 次に炭素原子とNH_2ラジカルの反応について、理論研究を行った。この反応では、星間空間で興味がもたれているHNC分子が直接生成する。まず、励起状態までも取り扱った精密な量子化学計算を行い、スピン軌道サブレレベルによる反応性に違いについて検討した。非断熱遷移の効果を取り入れた量子反応性散乱計算の結果、サブレベルの違いによって反応性が大きく変わることがわかった。このことは、低温である星間空間での反応を議論する場合、スピン軌道相互作用まできちんと考慮しなくてはならないことを指摘する結果である。
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