気相分子が固体表面で繰り広げる化学反応過程では、入射分子の立体ダイナミクスが鍵となる非平衡過程が重要な役割を果たしていると考えられる。しかし、これまで衝突の際の入射分子の分子配向が表面化学反応におよぼす影響を直接的に観察した例はほとんどない。私は表面の化学反応素過程における立体反応ダイナミクスを実験的に明らかにし界面における非平衡反応プロセスを解明することを目的とした研究を進めてきている。本年度は、前年度研究を継続して、表面に入射する分子の向きを揃えることの可能な超高真空対応型配向分子線装置を用いて、六極不均一電場中の分子のシュタルク効果により単一回転量子状態をもつ対称コマ型分子(ここでは具体的に塩化メチル分子(CH_3Cl))を選択し、配向させ、固体表面に入射し、表面に付着する確率を調べた。配向したCH_3Cl分子をCH_3基端あるいはCl基端から清浄なSi(001)表面に入射して、付着確率の被覆率依存性を測定し、反応過程における立体効果について明らかにした。初期付着確率に配向依存性の現れない低温領域でも、被覆率に依存して現れる配向効果を詳細に解析した。その結果、低温では、分子状の物理吸着状態と解離吸着状態が共存し、そこに至る反応経路を分子配向によって制御できることが明確になった。本年度はさらに一酸化窒素分子(NO)のSi(111)表面での解離吸着における立体効果もX線光電子分光法を用いて詳細に調べた。その結果、N端からの入射で反応確率が高いことを見出し温度依存性を明らかにした。これも、CH_3Cl同様に入射NO分子が前駆体状態に捕捉される非平衡過程に分子配向効果が現れた結果と考えている。また、表面酸化過程における立体効果を調べるために、配列の揃った分子線を発生させる装置の開発を行い、Cuならびにその合金表面における酸化過程についても新しい知見を得た。
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