研究概要 |
我々はこれまでに、DNA塩基分子を気相孤立化するための新規なレーザー脱離法を開発してきたが、この手法に改良を加えることにより、塩基対生成と塩基水和クラスターの効率的な生成を目指した。特に、波長可変レーザー(本助成で購入したYAGレーザーを用いて励起した波長可変OPOレーザー)を用いて脱離効率のレーザー波長依存性を調べた結果、より効率よくかつ非破壊的なレーザー脱離を行うことができた[Chem.Phys.Lett.418,119(2006)]。特にこれまではYAGレーザー光の基本波(1064nm)や2倍波(532nm)を用いてレーザー脱離が行われてきたが、これより短波長の可視光(400nm付近)を用いると、脱離効率が向上しかつ非破壊的な分子脱離が起こることが明らかとなった、このレーザー脱離法は、DNA塩基分子のみでなく多くの生体分子に適用できると考えられ、今後の発展が期待される。 更にこの脱離装置を用いて、塩基の水和物生成効率を向上させることができるようになった。その結果、アデニン(6-aminopurine)とその構造異性体である2-アミノプリンの水和クラスターについて電子励起状態の動的性質の違いを明らかにした[Excited-state dynamics of hydrated clusters of 2-aminopurine and N6,9-dimethyl adenine, Phys.Chem.Chem.Phys.,投稿中]。DNA塩基のひとつであるアデニンの水和物を電子励起すると、超高速で緩和が起こるのに対し、アデニンと置換することでけい光標識として用いられる2-アミノプリンの水和物にはそのような現象はみられない。この違いがDNA塩基の紫外線励起ダイナミクスの特徴を決定しているものと考えられ、更に詳細な検討を行っている。 また、これら塩基クラスターの微細構造を決定するために、研究分担者(立川)を中心として高精度の量子化学計算を行っている。
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