研究概要 |
低温で凍結したアモルファス状態の分子集合体における構造緩和の研究の一環として,分子自体の構造変化と分子間の相対的配向変化の関わり合いを明らかにする目的で,配座異性体をもつ化合物を試料とし,温度上昇によるラマンスペクトルの変化を調べる研究を計画した. 本年度は,まず真空ポンプオイルによる試料の汚染を少なくする目的で真空装置の排気系を改良することに着手した.このために,オイルフリーの荒引ポンプをもつ真空排気装置を購入し,また,液体窒素トラップを別途注文製作して,これまで用いていた真空容器と組み合わせることにより,新たに低温ラマン測定用真空装置を構築した.この真空装置を従来から用いていた高感度CCD光検出器つき分光器と組み合わせることにより,高真空条件でアモルファス試料の低温ラマンスペクトル測定をする態勢を整えた. 上記の作業と並行し,従来の装置を用いて,アモルファス1,2-ジクロロエタンの構造緩和の研究を行った.この結果,30K程度の低温基板に蒸着された試料では,室温での配座異性体存在比がほぼ凍結されること,より高温の基板温度では蒸着時にgauche分子の割合が増加すること,温度上昇によりアモルファス固体状態においてもgauche分子の増加が見られること,などが分かった.これらのことは,化合物としての安定状態はtrans分子からなる結晶であるにもかかわらず,アモルファス状態における構造緩和は液体状態に近づくことを示しており,不可思議な現象だと言わざるを得ない.以上の結果は,2005年11月に仙台で開かれたInternational Workshop on Slow Dynamics in Complex Systemsで報告した.
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