研究概要 |
インスリン水溶液(1mg/ml,100mM NaCl,pH2)を0.1〜400MPaの各圧力下60℃で、アミロイド線維形成反応をチオフラビンTの蛍光強度および光散乱強度の測定を行った。その結果、0.1〜200MPaの圧力範囲では、アミロイド繊維形成反応速度に変化は認められなかった。しかし、200MPa以上の圧力では、繊維形成反応は著しく抑制された。インスリンアミロイド繊維形成反応を核形成依存自己触媒反応モデル式に適用して、各圧力下における核形成反応速度定数および伸張反応速度定数を求めた。それぞれの速度定数の圧力依存より、核形成反応に伴う活性化体積は36±9.1cm3/mol、伸長反応に伴う活性化体積は15±4.2cm3/molとなり、インスリンアミロイド繊維形成反応の律速は、核形成反応にあることを明らかにした。 60℃において、4320分、50分、35分間温置して作成したインスリンアミロイド繊維をたんぱく質溶液から分離して、その繊維の二次構造を明らかにするために、高圧FT-IR測定を行った。その結果、いずれの赤外吸収スペクトル解析からは、平行β-シート構造とターン構造の存在が明らかになった。また、この平行β-シート構造に由来するピーク強度は、200〜300MPaの圧力範囲では大きな変化は観測されないが、300MPa以上の圧力から急激に、その強度は減少した。また、圧力をもとの1気圧に戻すと、スペクトルは完全に回復するとことから、インスリンアミロイド繊維構造は圧力に対して、完全弾性体として挙動することが明らかになった。 一方、Protein Deslfide Isomerase(PDI)触媒作用により生ずるインスリン凝集体のアミドIバンドから、この凝集体の二次構造は逆平行β-シート構造であることを明らかにした。また、チオフラビンT染色による蛍光スペクトルに強い蛍光が観察されることより、この凝集体はアミロイド繊維の可能性が高い、そこで、AFM観察を行つたところ、明確な繊維状の会合体を観察したことより、PDI触媒作用により生じるインスリン凝集体は逆平行β-シート構造のアミロイド繊維であることを発見した。
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