研究概要 |
1.溶媒中における反応化学種の構造解明と面選択性予測理論の構築 反応化学種を特定する手段として,鎖状化合物のコンフォメーション安定化効果因子の特定を目指した.最も単純な鎖状化合物である1,2-二置換エタン(XCH_2CH_2X)は一般にgauche体よりもtrans体の方が安定に存在すると認識されているが,置換基の種類によってはgauche体が安定配座となっている化合物の存在が知られている.本研究ではgauche効果の要因として超共役安定化効果に注目し,1,2-ジフルオロエタンをはじめとする1,2-ジハロエタンの配座安定性について理論化学的検証を行ったところ,antipeliplanar位の関係にあるC-X, C-H結合間で発生するantipeliplanar効果(AP効果)と,ハロゲン原子のlone pairがantipeliplanar位にあるC-XもしくはC-H結合に非局在化する効果(long-range lone pair delocalization effect ; LLP効果)の2つの値が,配座異性に伴って大きく変化することが明らかとなった.そこでこれらの効果について,ハロゲン原子による変化をそれぞれ見積もったところ,AP効果はgauche体を安定化する効果であり,LLP効果はtrans体を安定化する効果であることが示された.また,ハロゲン原子がF, Cl, Brと変化するに伴って,配座異性によるAP効果の差は小さくなる一方で,LLP効果の差は大きくなっており,ハロゲン原子の非共有電子対の非局在化と,結合間における電子の超共役安定化効果によって,1,2-ジハロエタンの配座安定化が支配されていることが明らかとなった. 2.タンパク質のフォールディング機構の解明を目指したタンパク分子内微弱相互作用の定量評価 タンパク質のフォールディング構造を担う最小単位でもあるペプチド結合に着目し,まずそのcis-trans安定化因子を理論化学的手法により探った.その結果,ペプチド結合に関与している6つの原子で形成される結合間の超共役安定化効果により,trans体が安定化されていることが明らかとなった.
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