研究概要 |
ジフェニルボロンクロリドを原料にして、種々のルイス酸と溶媒を用いて、ジフェニルボロンカチオンの生成およびその安定性、電子状態を、B-11NMRによる不安定化学種の検出とC-13NMRによる構造解析により求め、ab initio理論計算による検証を行った。その結果、ジフェニルボロンクロリドと置換ピリジンとのadductの形成、次に強いルイス酸SbCl_5によるイオン化で、ジクロロメタン中では、三価のsp2ボロンカチオンの生成が確証された。ニトロメタン中では、ニトロメタンの配位したsp3ボロンカチオンと裸のsp2カチオンとの平衡であり、ピリジシの置換基の電子供与性が大きくなるにつれてsp2カチオン側に移行する事が分かった。かさ高い2,6-ジ-t-ブチルピリジンではadductができなかった。ルイス酸SbCl_5は等量でカチオンが生成したが、GaCl_3, AlBr_3は3-5等量も必要であった。高イオン化脱離基のジフェニルボロントリフラートからのカチオンの生成は容易であり、用いた求核剤および溶媒の求核能の寄与は小さかった。溶媒に関してはニトロベンゼンはニトロメタンと同じであり、アセトニトリルは溶媒とのadductが生成し、テトラヒドロフランではルイス酸を用いなくても、溶媒二分子が配位したsp3ボロンカチオンを生成した。以上、結論として、二価のホウ素カチオンに対する溶媒もしくは求核剤の配位による安定化により四価のホウ素カチオンとして存在する。求核剤とのadduct形成を経由すると三価のボロンカチオンが生成するが、求核剤のカチオン安定化が弱くなり、溶媒の求核能が大きくなると正四面体構造の四価のボロンカチオンが共存してくる。溶液中では、ルイス酸性が最も強い三価のボロンカチオンが、溶媒および配位子の種類により、四価カチオンとの平衡として存在する事実は、ボロンカチオンのルイス酸触媒として機能性発現解明の重要な手がかりである。
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