研究概要 |
1,3-ブタジエンの2位に脱離能の高いスルホン酸エステル基を有するジエン-トリカルボニル鉄錯体にルイス酸を作用させ,ルイス酸の配位子による脱離基の置換反応を試みた。その結果,低収率ながら置換反応生成物を異性体混合物で得ることができた。この結果より,反応はルイス酸がジエンの1位に配位し,異性化が可能なη^3-アリル鉄錯体を形成し反応が進行していると言える。この中間体の段階で,ルイス酸の立体的嵩高さ,反応温度によって異性体生成比が変化していると考えられる。 鉄上のカルボニル配位子をリン配位子に交換することで,ジエン部位がより電子豊富となることが知られている。そこで,本置換反応においても鉄上のカルボニル配位子の1つをリン配位子に交換することで,η^3-中間体を安定化し,ルイス酸に対するジエンの活性化を狙った。その結果,トリカルボニルの場合よりも低い温度で反応は進行し,ルイス酸に対する反応性は向上した。しかしながら,脱鉄カルボニル化した生成物が主生成物として得られた。これは未反応のルイス酸によって脱鉄カルボニル化反応が促進されたためと考えた。そこで,原料を加熱還流しながらルイス酸をゆっくり滴下する手法を用いた際に滴下時間を長くするにつれて,目的とする置換生成物を高収率で得ることに成功した。 求核剤存在下,立体的に嵩高いルイス酸を作用させることで,脱離基の求核剤による置換反応も可能であると考えられる。環状の鉄錯体の場合,芳香族化合物との置換反応が収率よく進行していたが鎖状の場合,芳香族化合物との置換反応は進行しなかった。アリルシランを求核剤として用いた際にアリル化された鉄錯体を得ることに成功した。
|