研究概要 |
本年度は申請者が開発した方法を用いて生理活性天然物の短段階合成を実現した。 鎖状ポリケチド類の全合成研究においては、不斉補助基が付いたビニルケテンシリル-N,O-アセタールと任意のアルデヒドとをルイス酸存在下で反応させて高収率かつ高立体選択的にγ-ヒドロキシ-α,β-不飽和イミドを構築する方法を用いて、抗ピロリ菌剤アクチノピロン、5-リポキシゲナーゼ阻害剤ラグナマイシン、および抗腫瘍性物質カフレファンジンの不斉全合成を達成した。このうち、アクチノピロンとラグナマイシンは初の全合成であり、どちらの天然物についても最長直線経路で9工程という、きわめて短段階で高立体選択的に合成した。また本全合成により、これらの化合物の絶対立体配置を決定した。 含芳香族多環式化合物の全合成研究においては、神経成長作用物質ビナキサンソンおよび降圧剤TMC-66の初の全合成を達成した。ビナキサンソンの全合成においては、その生合成経路を想定し、それに基づいた全合成を実現することにより短段階合成を達成した。またTMC-66の全合成では、7環式化合物である標的化合物を2つの3環式のユニットを中央で触媒的にカップリングした後、酸化的環化により短段階で全合成することに成功した。各ユニットは独自の経路により短段階かつ高立体選択的に構築され、最長直線経路で9工程にて7環式化合物TMC-66の全合成を達成し、その接待立体配置を決定した。 このように本研究により、複数の不斉炭素と中程度の分子量を兼ね備えた天然生理活性物質を、これまでに無い効率性で不斉全合成することができた。このうち4つの化合物が初の全合成であり、その立体配置を決定することができた。
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