研究概要 |
合成された一連の白金(II)錯体について骨の無機成分であるヒドロキシアパタイトへの吸着を調べたところ,シスプラチンおよびオキザリプラチン部分骨格に脱離基としてリン酸様基を有する化合物に高吸着性を見出した。吸着はラングミュア式に従い,単分子吸着が示された。このとき吸着定数はリン酸基の数に比例した。SEMにより吸着表面に平滑な吸着面の形成が観察され,アパタイト-化合物間だけでなく,化合物-化合物間の相互作用が示された。培養ガン細胞を用いた抗ガン活性はシスプラチンやオキザリプラチンよりはやや低く,カルボプラチンよりは高い活性を示した。脱離基としてリン酸様基を有する白金錯体の中での活性相関は活性基となるPt-N部分の影響を強く受け,高い吸着能を示す錯体=DNAへの高い親和性を持つ=高い抗ガン活性を示すというわけではなかった。しかし,リン酸様基を有する化合物はリン酸基を持たない化合物に比べて高い活性を示すケースが多く,アパタイト吸着能評価は,抗がん剤創製の有力な手段と考えられた。リン酸基含有白金錯体とオリゴDNAとのX線結晶解析は白金がグアニンN7に単座で配位した新規の相互作用様式を示し,新しい抗がん機構を有する薬剤であることが示された。これはリン酸様基を有した白金錯体は長い半減期を示し,加水分解に強く抵抗する性質に由来するものと考えられ,(1)DNAとの新しい相互作用様式,(2)骨への選択的デリバリー,等アパタイトに吸着に基づく抗がん剤開発のアプローチは有効であった。
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