混合原子価状態の多孔性錯体高分子を合成すると、ゲストの吸脱着に伴って、多孔性錯体高分子ホストの伝導度が変化し新しいタイプの小分子センサーのプロトタイプになり、また吸脱着による電子構造変化としても興味深いものと期待される。このような多孔性錯体高分子として、ヨウ化物イオンで架橋された混合酸化状態のロジウム複核錯体からなる多孔性錯体高分子を合成し、その伝導機構の評価、小分子吸脱着挙動とそれに伴う電導度の変化を調べた。まず含水多孔性錯体高分子ならびに関連錯体の電子スペクトルの相互比較に基づき、この混合酸化状態錯体の原子価問電荷移動(IVCT)吸収帯が6.10kKの近赤外領域にあらわれることを見出した。この吸収帯と、伝導のアーレニウス活性化エネルギー1.27kKを比較すると、本錯体の伝導はトランスファーインテグラル値が0.26kKのスモールポーラロン機構により生じていると評価された。また、2万気圧までの加圧において電導度は大気圧下のそれの1/3まで単調に減少し、加圧にともなう相転移のような伝導性の劇的変化は示さなかった。 この錯体を室温ないし加熱下で真空引きすると、結晶水が脱離して多孔性物質となる。もとの結晶水の2/3までの部分脱水の場合、伝導度は1万分の1まで減少するが吸湿により電導度はもとの値まで回復する。このとき結晶構造は可逆的に変化していた。また、完全に脱水した錯体は室温において組成式ユニット1モル当たり2モル余りのメタノールやアセトニトリルを吸着する。脱水により減少した電導度はメタノールやアセトニトリルの吸着に伴って増加する。今回合成した錯体のトランスファーインテグラル値はかなり小さく、従ってホストの微小な幾何学的ないし電子的構造変化の影響を大きく受け、小分子の吸脱着に伴って大きな伝導性の変化が生じると考えられる。
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