研究概要 |
長鎖アルキル配位子として,系統的な研究に都合の良いアシルアミノ酸配位子が三つ配位したトリスアシルアミノ酸希土類(III)錯体を新たに合成し,その溶液内での会合挙動,溶液から固体を形成する際の液晶性あるいはガラス形成について詳細に調べた。まず,アシルアミノ酸のアシル基の長さがC6〜C12とわたって,固体状態でのアモルファス性のとりやすさを調べた。C6とC8とではあまり大きな違いが見られず,いずれも安定なガラス状態をとりやすかった。C12錯体が最も結晶化しやすかった。更に,安定なガラス状態を形成するオクタノイルアミノ酸錯体について,アミノ酸をこれまでのアラニンに替え,フェニルアラニン,セリンなどの極性基にして,固体状態におけるアモルファス性あるいは,異方性への影響について調べた。その結果,アラニンに比べてこれらのより複雑な構造の極性基を持つオクタノイルアミノ酸錯体はより異方性をとりやすく,しかも,一方で,ガラス転移点の存在も確認された。すなわち,状態として興味深い「液晶性ガラス」が形成されたものと考えられる。希土類金属としては,イットリウム,ランタン,そして発光性のユーロピウムを用いた。いずれの金属の錯体も安定なガラス状態を取りやすいが,有機溶媒中で水を添加して単離した固体については,ランタンの錯体が結晶化しやすい特徴があることも分かった。また,ユーロピウム錯体は発光特性を利用して,溶液内で会合体を形成し,そこからゲル,ガラス状態へと転移してゆく過程を発光強度ならびに発光寿命と関連づけて論じることができた。用いた測定手毅は,本研究費交付によりシステムを更新したDSC,本研究費により新たに購入した,熱天秤・示差熱分析装置のような熱測定を主体として,他に,X線散乱装置,異方性を検出する偏光顕微鏡,溶液内会合を調べるNMRなどである。すなわち,熱測定,構造化学の両面からアプローチしている。
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