研究概要 |
長鎖アルキル配位子として,系統的な研究に都合の良いアシルアミノ酸を用い,その希土類(イットリウム,ランタン,ユーロピウム,テルビウム)錯体を新たに合成して,溶液内での会合挙動,その結果生じるガラス状態,結晶状態などの固体状態について,熱測定,X線散乱,NMRなどを用いて構造特性を調べた。とりわけ,発光性を示すユーロピウムならびにテルビウム錯体については,更に発光強度や発光寿命を測定し,それらの結果と構造特性とを関係づけて議論した。また,極性基部分の効果を見るために,基本的なアラニンの替わりにフェニルアラニンやセリンを用いた錯体を合成して,アラニン錯体との違いを見た。今年度得られた興味ある知見は次のようである。1)極性基をセリンにすると金属錯体となってもアラニンに比べて親水性が高まり,溶液内で錯体同士が会合しやすくなり,また会合の際に異方性を取る傾向になった。しかし,固体状態の熱分析ではガラス転移点が明確に現れ,この状態をユニークな「液晶性ガラス状態」と結論づけた。2)発光特性により溶液内の会合形成,脱溶媒和,ガラス状態形成の過程を明確に追跡することができた。3)X線小角散乱測定から,メタノール溶液内で二分子層の会合体がまず形成され,濃厚になるにしたがってむしろ一分子層の会合体が優勢になり,ガラス状態では,一分子層が主に形成されていることが分かった。これは,通常の会合過程とは異なった傾向である。4)固体NMR測定により,結晶状態に比べてガラス状態でのアルキル鎖のゴーシュランダム構造が示された。5)希土類金属のEXAFS測定の結果,濃厚溶液からガラス状固体にわたって金属の配位数は8と変化しなかった。 これらの錯体の分子構造が明確に反映された相挙動の研究には,本科研費で購入した,TG-DTA装置ならびに制御システムを本科研費で更新したDSC装置が基本的な測定機器として重要な役割りを果たした。
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