分子内に大きなひずみをもつリン架橋[1]フェロセノファン1はUV光を照射することにより容易に開環重合し、ダイマーからポリマーの混合物2を与える。この2に硫黄を反応させることによりホスフィンサルファイド3を得た。このホスフィンサルファイド3をGPCおよびシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いることにより環状のダイマー4a、4bおよびトリマー5a、5bを得た。このうち4a、4b、5aについてはX線構造解析によりその構造を明らかにした。錯体5bは、MALDI-TOF MSよりトリマーに相当するピーク([M+H]^+=973)が観測され5aの異性体であると考えられる。さらに、他のフラクションからはテトラマー、ペンタマー、ヘキサマー、ヘプタマーに由来するピークが観測できた。次に、ダイマー4aとAg(I)、Cu(I)との反応を検討した。それぞれ反応は定量的に進行し、錯体[Ag(4a)]_3^<3+>(6a)と[Cu(4a)]_3^<3+>(6b)をそれぞれ与えた。錯体6aについてはX線構造解析を行った。その結果、結晶状態では、ダイマー4aは2座キレート配位子として機能しており、さらに片方の硫黄がもう1分子のAgに配位し、Agは3配位構造であった。そして、これを基本骨格としてAg、Sからなる6員環を形成していることがわかった。しかしながら、溶液状態では、各種NMRスペクトルより4a部分が高い対称性を有しており単核錯体として存在していることが示唆された。
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