研究概要 |
申請者らは,ピリジンチオラト架橋二核レニウム(IV)錯体の磁化率の温度依存性の解析から,基底状態(^1A_<1g>)と最低励起状態(^3B_<1u>)とのエネルギー差を350cm^<-1>程度と以前見積った.この錯体自身はδとδ^*軌道が接近しすぎており,可視光に応答して磁性が変化するようなデバイスには向かないと考えられる.本研究では,5位および4位にメチル基を導入したピリジンチオラト配位子やピリミジンチオラト配位子を用いて電子状態を微妙にコントロールした錯体を合成し,磁性にどのような影響が現れるかを調べることを目的として研究を行った.どの錯体もまだ単結晶が得られていないので正確な構造は分かっていないが,それらの錯体の紫外可視吸収スペクトルより,置換基を持たないピリジンチオラト配位子を用いた場合のmajor productに相当する異性体が得られているものと考えている.SQUIDによる磁化率測定の結果は,置換基を持たない配位子を用いた場合に類似していた.ところが,^1H NMRは錯体の持つ温度に依存した磁性の影響を反映し,配位子の化学シフトが錯体により大きく異なることがわかった. 一方,無色の錯体[Pt_3(μ-pz)_6]はハロゲン化物イオンの存在下Ce(IV)イオンで酸化すると濃青色のtrapped valence型錯体[Pt_3Br_2(μ-pz)_6]を与える.[Pt_3Br_2(μ-pz)_6]のDMF溶液は327,475,590nmに吸収極大を持ち,この錯体の固体状態の構造をもとに最適化した構造について,TD-DFT法により励起エネルギーの計算を行うと,紫外可視吸収スペクトルの測定結果と良く一致した.しかし,[Pt_3Br_2(μ-pz)_6]の^1H NMRスペクトルを重DMF中,20℃で測定したところ,δ 7.91ppmおよび6.20ppmにブロードな2本のシグナルが観測された.このスペクトルは,[Pt_3Br_2(μ-pz)_6]の固体構造から予想されるものとは大きく異なる.温度可変NMRスペクトルの測定とそのシミュレーションにより,この錯体の非常に興味深い動的挙動を明らかにした.
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