近赤外希土類発光に対する遷移金属錯体の光アンテナ効果を検討するため、希土類(III)イオンと安定な1:1錯体を形成する8座配位子アームドサイクレンに、遷移金属イオンへの配位が可能なピリジン環を導入し、溶液中での複合錯体の形成を行った。異種金属錯体間の光励起エネルギー移動の発現とともに、希土類イオンの近赤外発光効率を向上させることに成功した。 光アンテナ用遷移金属錯体として白金(II)錯体に注目し、配位子交換が容易な配位部位もつ二種類の前駆錯体を合成した後、希土類錯体のピリジン環アーム部位との配位子交換反応を行った。生成する白金-希土類複核錯体の安定度定数を滴定実験により決定し、0.1mM程度の低濃度アセトニトリル溶液中において複核錯体が安定に存在することを明らかにした。77Kの凍結溶液中において、白金(II)錯体の可視領域における強い電荷移動吸収による、近赤外希土類発光の増感効率を発光実験によって決定した。その結果、白金-ネオジム錯体の場合、超分子錯体における分子内エネルギー移動を利用した発光量子収率は、紫外線励起による側鎖ピリジン環の光励起による発光量子収率に比べ3倍程度増大することが分かった。一方、白金-イッテルビウム錯体では白金(II)錯体による光増感は低効率であった。 異種の金属錯体から複合体を形成させる超分子的なアプローチにより、種々の遷移金属錯体と希土類錯体との複合化が容易に図れることを実証するとともに、遷移金属による希土類発光増感メカニズムを解明するための優れた分子材料を提供できることが分かった。
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