希土類イオンの示す近赤外発光を溶液内での発光センシングに応用するためには、発光効率の向上や失活過程の抑制を可能とする錯体合成が不可欠である。研究代表者はアームドサイクレン-希土類錯体の安定性と強発光性に着目し、これを高周期遷移金属イオンとハイブリッド化することにより、近赤外発光効率の飛躍的な向上を図った。まず、希土類錯体の側鎖アーム部を利用した段階的な希土類-遷移金属複核錯体の構築法を開発した。白金(II)錯体やレニウム(V)錯体とのハイブリッド化においては、希土類との複核錯体の単離に成功し、結晶構造や溶液内構造をX線およびNMR構造解析によって明らかにした。レニウム錯体の場合、希土類イオンとの間に直線的な酸素架橋構造を有し、前例のない構造であることを見いだした。 結果として、遷移金属錯体から低エネルギー励起状態を持つ希土類イオンへのエネルギー移動によって、希土類イオンからの近赤外発光が得られた。特にレニウム錯体を用いた場合には室温・溶液状態でも強い近赤外発光が得られ、遷移金属錯体の電荷移動吸収帯を利用した効率的な可視-近赤外変換が達成できることを実証するなど、新しい近赤外発光錯体としての有効性を明らかにした。本研究の主な成果は、(1)希土類錯体から多彩な希土類-遷移金属複核錯体が合成できたこと、(2)希土類-遷移金属間に強い相互作用が発現する近接距離に両錯体を固定化できたこと、(3)その結果、効率的な可視-近赤外光変換系が実現できたことである。今後、低周期遷移金属錯体とも同様の手法で組み合わせることにより、優れた光磁気機能を持つ金属錯体の創製を目指した研究に発展させる。
|