本研究では、顕微分光法と温度ジャンプ法を組み合わせた手法などを用い、微小空間内における様々な化学・物理プロセスを解明するための分析化学的基礎の確立を目指した。ナノ秒パルスNd^<3+>:YAGレーザーの1064nm光をラマンシフトにより1200nmに変換し、20μmの領域を上昇温度が7℃以上、時間分解能が10^<-8>sである温度ジャンプ-顕微蛍光法を開発した。また、1msの時間分解能でCW Nd^<3+>:YVO4レーザーの1064nm光を高速シャッターで開閉し、2〜3μmの領域を10℃温度ジャンプできる手法を作製した。ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)水溶液が32℃前後での相転移で微粒子形成する現象を蛍光プローブ色素を用いて検討したところ、パルスレーザー温度ジャンプ測定から、10μsの立ち上がり成分が観測され、相転移後の凝集過程ではなく相転移過程の直接観測に成功した。この相転移を細孔サイズ50nmの多孔性微粒子中で行ったところ、1ms以内では相転移できないが、10ms以上では可能であることがわかった。低分子については、パルスレーザー温度ジャンプ法では多孔性粒子内物質移動過程を観測できなかったが、CWレーザー温度ジャンプ法を用いて、クマリン101/ODSシリカゲル(細孔サイズ12nm)系で細孔内拡散の観測に成功した。低分子系について、相補的実験として単一微粒子インジェクション-顕微分光法により短時間で濃度またはpH変化させ、多孔性粒子内物質移動を観測したところ、細孔サイズが12nmのODSシリカゲルでは、細孔サイズ3〜30nmのシリカゲルと同様に細孔内溶液中を拡散するポア拡散が支配的となった。キチン誘導体の多孔性粒子(細孔サイズ〜1nm)中では細孔壁に沿って拡散する表面拡散がる律速になることを明らかにした。
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