フォトクロミック部位であるスピロベンゾピランにクラウンエーテル部位とオクタデシル基を備えたクラウン化スピロベンゾピラン誘導体を、ドデシル硫酸イオンから成るミセルに溶解させた溶液について、金属イオン添加時の蛍光スペクトル変化を調べた。その結果、塩基性条件下ではモノアザ-12-クラウン-4部位を持つものでリチウムイオン添加時に顕著な蛍光の増感が認められた。モノアザ-15-クラウン-5、-18-クラウン-6を持つものでも、アルカリ金属イオンについて同様の検討を行ったところ、やはりクラウンエーテル部位と最も錯形成能が高いナトリウムとカリウムイオンをそれぞれ加えた場合に最大の蛍光強度を示した。 また、クラウン化スピロベンゾピラン誘導体を含み陰イオン界面活性剤より成るミセルの存在状態、形状、臨界ミセル濃度などの基礎的性質を知ることは、今後のミセル形成に利用する界面活性剤の設計ならびに、ミセルの有機溶媒捕捉剤としての応用の可能性を探る上で極めて重要である。 このような観点から、ミセルの最も基本的な性質である臨界ミセル濃度(cmc)を調べた。その結果、ミセルのcmcは、12-クラウン-4誘導体を含まない系<12-クラウン-4誘導体を含む可視光照射時<12-クラウン-4誘導体を含む暗時、の順に増加した。また、ミセルの会合数は、cmcの結果と全く逆になることがわかった。ミセルを動的光散乱分光法や凍結乾燥させたものを透過型電子顕微鏡により観察したところ、ミセルは球状であり、12-クラウン-4誘導体の有無と、12-クラウン-4誘導体を含む場合の光照射により粒径が変化することを認めた。さらに、ミセルの有機分子の溶解性が、スピロピラン部位への光照射に伴うミセル内部の極性変化に非常に強く影響を受けることも確かめた。
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