やわらかな界面である水溶液表面の構造解析を目的として全反射X線吸収分光法を開発した。水面でX線を全反射させるには入射角度を極めて小さくする必要があり、そのために本分光法を用いた実験は高輝度平行光であるシンクロトロン放射光を使用しなければならない。そこで、つくば、高エネルギー加速器研究機構、放射光実験施設フォトン・ファクトリー、および播磨、高輝度光科学研究センター、スプリング8にて実験を行った。 実施した実験は、つぎの二つに分けることができる。 (1)界面活性陽イオンに吸着して気液界面に集積する臭化物イオンの表面濃度の決定とその溶媒和構造の解析。 アルキルアンモニウム塩を溶解した水溶液の表面に存在する臭化物イオンの表面濃度を本実験により決定した。その表面濃度と塩バルク濃度との関係は、界面張力データを熱力学的に解析することによって得られる表面過剰濃度の挙動とほぼ同一であったが、臨界ミセル濃度(cmc)近辺では食い違いが見られた。特にcmc以上のバルク濃度での表面濃度を知ることはこれまで他の手法ではできなかったが、本法により初めて可能となった。さらに、表面に存在する臭化物イオンの溶媒和構造に2種類のものがあることが、EXAFS解析により明らかになった。 (2)水面に展開する不溶性錯体の構造解析と界面吸着状態、特に平面錯体の選択的配向の決定。 機能性薄膜の一つとして盛んに研究されているLangmuir-Blodgett膜は、まず水面に単分子膜を生成する。この単分子膜の構造を本法によりin siteに決定することを試みた。試料は、金属ポルフィリン錯体である。これを単分子状に展開したものは、ポルフィリン環の周囲の置換基の種類、置換位置に応じてその平面環の水面に対する配向角度が異なることが分かった。また、平面錯体の軸配位子が存在するもの、存在しないものがあることも明確となった。
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