ヒトの健康状態および快適な室内空気質の維持・管理の観点から、非侵襲的な皮膚ガス測定は重要になる。本研究では、微量な皮膚ガスを定量的かつ簡便に測定するため、パッシブ・フラックス・サンプラー(PFS)を開発し、ヒト皮膚からのアセトアルデヒドおよびアセトンの放散フラックスを測定した。PFSは、ステンレス缶、DNPH含浸捕集フィルター、PTFE製O-リングおよびバックアップ板から構成される。開口部を測定部位に密着し、皮膚表面から発生するガスを捕集し、HPLC法により定量して放散フラックスを求めた。皮膚ガスの放散経路および最適捕集部位を検討するため、成人ボランティアを対象に全身8箇所で同時測定した。その結果、両物質とも汗腺の分布が多い足裏、手の平、前腕部で高い検出率を示し、アセトアルデヒドは汗腺分布が少ない上腕部では低い検出率を示した。また血管が内部に分布する胸元、上腕部ではアセトンの検出率が低かった。よってアセトアルデヒドは主として汗腺由来、アセトンとは汗腺および血管に由来するものと考えられた。大学生、社会人ボランティア各60名を対象に皮膚ガス同時測定を実施したところ、アセトアルデヒド、アセトン放散量には個人差が大きく、体調不良者に高い放散量が認められた。アセトアルデヒド放散量に及ぼす飲酒の影響を調べた結果、酒に強い被験者ではアセトアルデヒドの放散が認められず、酒に弱い被験者は飲酒直後より放散量が増加し、少なくとも8時間は放散が持続した。一方、アセトンは血中グルコース濃度が低下したときに脂質代謝によって生成する。そこで絶食後のアセトン放散量を測定したところ、時間とともに放散量が増加する傾向が見られた。本研究により、皮膚ガスの多検体・同時測定が可能となり、皮膚ガスを用いた非侵襲的な臨床分析に利用できる可能性が示された。
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