研究概要 |
1.ルテニウム錯体の合成と性質 吸光度検出型血糖値センサの発色剤として用いるために,ルテニウム(III/II)錯体[Ru(NH_3)_5(L^+)]^<4+/3+>(L^+=4,4'-ビピリジニウムイオン)を合成し,それらの分光化学的および電気化学的性質を調べた.[Ru^<II>(NH_3)_5(L^+)]^<3+>は580〜680nmにモル吸光係数が10^4 M^<-1> cm^<-1>以上の電荷移動吸収帯を有するのに対して,[Ru^<III>(NH_3)_5(L^+)]^<4+>は可視部に吸収をもたないことがわかった.また,[Ru(NH_3)_5(L^+)]^<4+/3+>の酸化還元電位は0.15〜0.18V vs.Ag/AgClと比較的低い電位を示した.すなわち,無色の[Ru^<III>(NH_3)_5(L^+)]^<4+>が還元型のグルコースオキシダーゼと反応すると,600nmより長波長に強い吸収を有する[Ru^<II>(NH_3)_5(L^+)]^<3+>を生成するので,全血中のヘモグロビンの影響を受けずにグルコース検出が可能な発色剤になりうることが示唆された. 2.ルテニウム(III)錯体とグルコースオキシダーゼ間の電子移動反応 ルテニウム(III)錯体[Ru^<III>(NH_3)_5(L^+)]^<4+>が有用な発色剤として作用するためには,還元型グルコースオキシダーゼと反応して瞬時に発色する必要がある.そこで,GOx_<red>+2Ru(III)→GOx_<ox>+2Ru(II)の電子移動反応速度定数を求めた.その結果,5.7×10^6〜1.7×10^7 M^<-1> s^<-1>が得られ,同程度の酸化還元電位を有するオスミウム錯体よりも大きな値を示した.これは電子移動反応により瞬時にルテニウム(II)錯体が生成し,無色から青色へ発色することが明らかとなった.これらの成果は次の論文に掲載される."Dipolar ruthenium(II) ammine complexes as electron transfer mediators of amperometric glucose sensors, Bioelectrochemistty, in press." 3.ルテニウム(II)錯体とグルコースオキシダーゼとの相互作用 酵素と錯体間の電子移動反応GOx_<red>+2Ru(III)→GOx_<ox>+2Ru(II)で[Ru^<III>(NH_3)_5(L^+)]^<4+>が大きな速度定数をもつ理由を明らかにするために,[Ru^<II>(NH_3)_5(L^+)]^<3+>とグルコースオキシダーゼとの相互作用を検討した.その結果グルコースオキシダーゼの補酵素であるFADと[Ru^<II>(NH_3)_5(L^+)]^<3+>のL^+との間にスタッキング相互作用があり,L^+が酵素内へ入り込む,いわゆる"アンテナ効果"で大きな速度定数が得られることが示唆された.
|