硫酸水素セシウムに対して、水素イオンと重水素イオンの相互拡散過程におけるO-H、O-D結合の空間分布の経時変化を赤外分光測定により追跡することで相互拡散係数を求めることを目的として、今年度は、測定システムの整備と実際のデータの取得および検証を行った。 硫酸水素セシウム(CsHSO_4)の重水素体(D体)の空間分布を測定する上でO-D bending modeのピーク面積を求めることが適切と判明し、最適試料厚みは約20μmであった。使用する赤外透過基板としては、CaF_2では固体試料を約20μmの厚さに保持する際に容易に割れてしまい、サファイヤでは目的のピークに赤外吸収帯が重なる等の不都合があった。結局、ダイヤモンドが吸収帯の重なりもなく、強度的にも適していた。このため、赤外顕微部の反射対物鏡の開口数に合わせて開口角を70度に広くとったダイヤモンドアンビル・セルを用いる事にした。これにより高圧下での測定も同じ測定セルで行える事になった。 当初の計画では、試料のH体とD体の初期界面から数十μm程度の離れた場所において赤外スペクトルの経時変化を計測する予定であったが、本課題において整備した自動ステージを用いて赤外マッピング測定することでD体濃度の2次元分布を得て、濃度プロファイルカーブを求める事が出来るようになった。この濃度プロファイルを拡散対モデルを適用した拡散方程式の解でフィットすることで、拡散係数Dと経過時間tの積が求まる。経時変化を測定する事で拡散係数Dを求める事ができた。CsHSO_4を対象とした測定では、1GPaのphase IIに対して文献既知であるイオン伝導度から求めた常圧のphase IIの拡散係数とオーダーで一致する値が得られている。信頼性や精度の向上のために測定条件や試料セットアップ法のさらなる改善を行っている。
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