研究概要 |
本研究の推進のためには、多環式芳香族化合物に遷移金属フラグメントを結合させる必要があるが、そもそも多環式芳香族化合物を配位子に持つ遷移金属錯体の合成は限られており,これらを容易に合成するための方法が来開拓であった。そこで平成18年度の研究では、まず、これらの合成方法の開拓を行った。1980年代にフランスのTkachenkoらが(シクロオクタジエン)(シクロオクタトリエン)ルテニウム(0)とブレンステッド酸の反応を研究しており、ベンゼンを溶媒にした際にはベンゼン錯体が高収率で生成することが報告されていた。我々はこの報告に着目し,ヘキサフルオロリン酸の存在下において(シクロオクタジエン)(シクロオクタトリエン)ルテニウム(0)と多環式芳香族化合物との反応を行った.その結果、室温において極めて容易に、従来合成が困難であった各種カチオン性多環式芳香族化合物[Ru(η^6-polycyclic arene)(1-5-η^5-cyclooctadienyl)]PF_6が合成できることが明らかとなった。また、さらにこれらの錯体とヒドリドとの反応により0価錯体へ誘導することも可能である事が明らかとなった。これまで合成が困難であった多環式芳香族化合物を持つ錯体が自在に合成できることが明らかとなったことから、アセン系およびアフェン系多環式芳香族化合物を配位子とする錯体を各種合成し、異なる多環式芳香族化合物を添加することにより配位子交換反応を行い、熱力学的な相対的安定性を評価した。その結果、アセン系化合物よりアフェン系化合物が安定であり、非配位芳香環の芳香族安定化が錯体の安定性に寄与していると結論した.この結果は、アセン系化合物が金属フラグメントへの6π配位によって非配位芳香環の芳香族性が失われるのに対し、アフェン系化合物は、金属フラグメントへの6π配位の後にもなお、非配位芳香環に芳香族性を有することに由来し,アフェン系化合物のトリフェニレンの場合には、6π、12πおよび18π配位と逐次的な反応により、最終的にはすべて芳香環で金属フラグメントに配位可能なこととよい整合性を示した.
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