研究概要 |
末端アルキンにルテュウム触媒を作用させると、アセチレン水素の1,2-転位によって生じるビニリデン錯体を経由して、アルキンの二量体を与えることが知られている。アセチレン水素はヒドリドとしてではなくプロトンとして移動していると考えられているので、アルキンのsp炭素上に水素の代わりにより電気陽性なスタニル基をもつアルキニルスズは、より速やかにルテニウム錯体と反応し、β-スタニルビニリデン錯体を生じるものと期待した。実際にルテニウム触媒存在下アルキニルスズをアルキンと反応させたところ、期待通りこれらの化合物の炭素-水素結合がアルキニルスズに対してスタニル基の転位を伴って付加することを見つけた。具体的には、触媒量の塩化ルテニウム(II)・パラシメン錯体およびトリブチルホスフィン存在下、DMSO中50℃でトリブチル(オクチニル)スズとフエニルアセチレンを5時間反応させたところ、目的とするスタニルエンインが立体異性体の混合物(E: Z=67:33)として収率85%で得られた。トルエンやTHFのような極性のより低い溶媒を用いると、収率は格段に低下する。配位子をトリブチルホスフィン以外のホスフィンに替えると目的の付加体は全く得られない。三塩化ルテニウムのような他のルテニウム錯体を触媒として用いても、収率は若干低下するものの、立体異性体の混合物が同様の選択性で得られた。この反応は、様々な脂肪族・芳香族末端アルキンおよびアルキニルスズに適用可能であることも明らかにした。アルキン2分子とアルコシシスズ1分子から一挙にスタニルエンインを得ることもできる。また、得られたスタニルエンインがクロス・カップリング反応を初めとする炭素-炭素結合形成反応に利用できることも明らかにした。さらに、密度汎関数理論を用いた理論計算によって、反応が確かにビニリデン錯体を経由して進行していることを確認した。
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