光照射による配位子解離反応を利用して触媒活性種を生成させ、反応を開始させる手法はすでに知られているが、これを酸化反応に応用した例はきわめて少ない。本研究代表者の山口は、非ヘム型ルテニウム錯体を触媒とし、さらにピリジンN-オキシド誘導体の存在下でこの錯体に可視光を照射するとアルカンの触媒的酸化反応が起こることを見出した。三級炭素に対してきわめて高い選択性を示し二級炭素の酸化はほとんど起こらない。同位体効果から反応の律速段階はCH結合の切断であると推定される。また、立体化学の検討により反応は完全な立体保持で起こることが明らかとなり、従ってフリーラジカルの関与する反応ではなく、メタンモノオキシゲナーゼなどで知られているリバウンド機構に類似した反応機構であると考えられ、金属オキソ種の関与が示唆される 触媒前駆体の光反応の詳細な検討を行ったところ、錯体の対アニオンにより反応性が異なることから、反応の鍵中間体は配位子であるジメチルスルホキシドやアセトニトリルなど単座配位子がMLCT吸収帯で励起され、配位子解離することにより生成した五配位中間体へ対アニオンである塩化物イオンが配位して生成するジクロロルテニウム錯体であることがわかった。触媒前駆体の錯体から配位子の光解離により配位不飽和種を生成させることが鍵となっており、本研究は光照射によりアルカン酸化反応の自在制御可能な新たな手法を実現した。さらにビスアセトニトリル錯体を用いることで反応系中で様々なハロゲンイオンの配位した中間体を生成させることに成功し、その反応性の比較から反応機構および触媒の活性に関して重要な知見を得ることができた。
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