研究概要 |
本研究は、ホスファアルケンのリン-炭素二重結合への付加反応を利用して高効率に光学活性な第三級ホスフィンを合成することを目指している。本年度は次の2点を検討した。 (1)ホスファアルケンの設計と合成 2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル基で立体保護されたホスファアルケンは空気中で安定であるが、その反応性は小さい。そこで、これまでにない新しいホスファアルケンを合成する必要がある。著者は、炭素原子上の置換基にオルト置換フェロセン誘導体、オルト置換芳香環、およびトリカルボニルクロム基が配位したオルト置換芳香環をもつホスファアルケンを合成した。面不斉を導入するため、オルト位の置換基として2-(ジメチルアミノ)エチル基、2-(アルキルチオ)エチル基およびヘテロ環を選んだ。いずれの場合も、対応するアルデヒド誘導体からホスファPeterson反応を利用して、良好な収率で安定なホスファアルケンが合成できた。 (2)リン-炭素二重結合への立体選択的な付加反応の開発 合成したホスファアルケンの付加反応および立体選択性の発現について検討した。まず、2価のパラジウムがホスファアルケンを活性化するアルコキシパラデーションを行った。このとき、ホスファアルケンのπ平面を区別するため、フェロセンの面不斉を利用した。反応は、立体選択的に進行し、ホスファパラダシクロプロパンを含むpincer型パラジウム錯体を良好な収率で与えた。また、トリカルボニルクロム基の電子求引性がホスファアルケンを活性化する求核付加反応を行った。このとき、チオラートアニオンが求核反応剤として優れていることがわかった。特に、セシウム塩を触媒とする反応が、チオホスフィンを収率良く与えた。オルト置換クロム錯体で反応を行うと、面不斉によりジアステレオ選択性が発現した。得られた錯体およびチオホスフィン誘導体は、不斉合成への利用が期待できる。
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