研究概要 |
光学活性なアリルアセテートに対するパラジウム触媒のアリル位アルキル化を位置およびジアステレオ選択的に進行させ,3級3級および3級4級連続不斉炭素中心を高立体選択的に構築する事に成功した.その際,炭素求核剤としてアミノ酸エステル誘導体のアニオンを使用することで,高度に立体化学が制御された3級3級および3級4級連続不斉中心を有するアミノ酸誘導体の合成に成功した.特に,3級4級連続不斉炭素中心を有するアミノ酸誘導体は本研究で目的とした4級アミノ酸の立体選択的合成である. 具体的には(R)-あるいは(S)-2-acetoxy-4-phenyl-3-buteneを反応基質として,グリシンエステル,アラニンエステルあるいはアズラクトンを求核剤としたパラジウム触媒によるアリル位アルキル化反応を行い,配位子として2-(diphenylphosphino)benzoic acidあるいはアリフェニルアルシンとすることで反応が高立体選択的に進行する事を見出した.その結果,反応は完全な位置選択性および最高98%のジアステレオ選択性で進行し3級4級連続不斉炭素中心を有する新規4級アミノ酸誘導体の成功した.特にアズラクトンを求核剤とした場合には,配位子を2-(diphenylphosphino)benzoic acidあるいはアリフェニルアルシンのいずれを使用するかによって,互いに異なる立体異性体が優先的に得られることを見出し,それぞれを高立体選択的に作り分ける事にも成功した. さらに,得られたアルキル化体をそれぞれ3-7段階でアスパラギン酸誘導体へと変換する事にも成功した.特に,アズラクトンの反応における配位子の作り分けと,反応基質の立体化学の使い分けを同時に行うことで,考えられる4つの立体異性体全てをそれぞれ選択的に作り分ける事が可能であり,本研究で見出した触媒系は種々の4級アミノ酸の合成に極めて有用なものと言える. また,本研究において見出した2-(diphenylphosphino)benzoic acidの金属触媒反応へ及ぼす特異な性質はルテニウム触媒によるアリルエステルのアリル位アルキル化反応においても見られる事を見出した.具体的には一置換アリルエステルのルテニウム触媒アリル位アルキル化反応において,これまでに例の無い完全なリニア選択性を見出す事に成功した.以上,本研究は当初の目的を完全に達成し,更には想定外の新たな現象を明らかとすることに成功した.
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