今年度は温度応答性高分子であるポリ(N-アルコキシ(メタ)アクリルアミド)の水溶液の相転移過程を顕微ラマン分光法、赤外分光法と密度汎関数理論(DFT)を併用して解析した。赤外分光法による解析により、相分離に伴いアミドIバンドが高波数シフトし、C-H伸縮バンドとアミドIIバンドが低波数シフトすることを示した。また、顕微レーザラマン分光光度計を用いた解析により、相分離状態においてポリマーを濃厚相とするドメインが形成され、その内部においてポリマーのメチル基およびメチレン基のラマンバンドが低波数側にシフトしていることを示した。次にDFTに基づいてポリマーモデル分子の振動解析を行い、アルキル基のC-H伸縮バンドが水和数の増加に伴って高波数シフトすることを示した。特にエーテル酸素に隣接するC-H伸縮バンドは酸素と水の間に水素結合が形成される際に、大きく低波数シフトすることがわかった。この現象は酸素の不対電子とC-Hの反結合性軌道の超共役による起因するものと推定される。これらのことから相分離状態の赤外・ラマンバンドのシフトがポリマーの脱水和に起因することを明らかにした。 さらに、ある一定温度以上で体積相転移を起こす(収縮する)直径が数100nmの温度応答性ゲル微粒子を合成した。この微粒子は充分に脱塩を行うと三次元コロイド結晶を形成して、可視光のブラッグ反射により構造色を呈する。反射波長の微粒子濃度と温度に対する依存性を顕微分光法により解析した。 また、微粒子をレーザの放射圧で補足して単一粒子のラマンスペクトルを測定するレーザトラッピングラマン分光法について検討した。この方法でブラウン運動する微粒子を定点に留めた状態でレーザ光により励起されるラマン散乱光を測定することで単一粒子のスペクトルを測定することが可能となった。
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