本研究では生体高分子材料の表面摩擦特性とその表面分子構造の相関を解明することを目的とし、高い感度と界面選択性を持つ和周波発生(SFG)分光法を用い、高分子材料の表面分子構造の解明を試みた。特に高分子材料の表面をラッピングさせた前後、その表面分子構造の変化を分子レベルで評価した。生体材料の表面物性を分子構造の観点で検討し、新しい評価方法の樹立を目指す。 本研究においては、柔らかい高分子材料の特性に合わせた分光測定セルを設計・作製した。SFG分光計測は、内部反射型の配置で測定を行った。ポリ-2-メトキシエチルアクリレート(PMEA)やポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリアクリレート系高分子やポリイミド系液晶分子の薄膜をCaF_2プリズムの平面にスピンコーティングによって作製した。SFGで評価した結果、各高分子のバルクはアモルファスであるにもかかわらず、その表面において、側鎖をある程度配向させている秩序をもつ分子構造であることが分かった。また、水溶液中ではポリアクリレート高分子の表面構造の変化が確認できた。水中に浸漬すると、PMEA表面にある側鎖エステル結合のカルボニル基(C=O)の伸縮振動は1740cm^<-1>から1720cm^<-1>へレッドシフトし、C=O基の大多数が水分子と水素結合を形成したことがわかった。このような水素結合はPMMAとPBMAなどの表面では、あまり観測されず、PMEAに特有な生体適合性との関連性が示唆された。これらのポリアクリレート表面をラッピングさせると、SFGスペクトルに変化があまり見られず、等方性であることが分かった。一方、ポリイミド系高分子の薄膜においては、ラッピング前後に表面構造の大きな変化が観測され、表面構造異方性の発現が確認できた。このような表面異方性構造の発現はポリイミド分子の官能基の種類やπ-πスタッキング状態などに依存することが分かった。その構造解析により、ラッピングによる表面構造変化の詳細について明らかにし、新しい機能性の発現と性能向上の可能性についても検討した。
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