TiOは高融点、高硬度でかつ金属的伝導性を持つことが予想され、物性的に興味深い物質である。しかし、大気圧下では不安定で容易に酸化されるため単結晶を得ることが難しく、そのため物性、反応性についてほとんど分かっていない。本研究は、TiOと結晶構造の類似したAg(100)基板上に酸素雰囲気下でTiを蒸着することにより、TiO単結晶薄膜を合成することを目指したものである。 室温のAg(100)に10^<-7>-10^<-5>Torrの酸素雰囲気下でTiを蒸着し、600℃に加熱すると、下地と(5×1)周期のTiO_2薄膜が生成した。一方、3×10^<-9>-1.0×10^<-8>Torrの酸素雰囲気下でTiを蒸着し、600℃に加熱することにより、下地と(1×1)周期で整合したTiO(100)単結晶薄膜を合成することに成功した。以上のように、Ti蒸着中の酸素圧を制御することにより、TiO_2とTiOの薄膜を選択的に合成しうることが分かった。 以上により合成したTiO薄膜に対して角度分解光電子分光測定を行うことにより、その電子状態の解明を目指した。TiO薄膜の光電子スペクトルには、4-8eVに主として0 2pより成る価電子帯、0-2eVに伝導帯が観測される。伝導帯のスペクトルには鋭いフェルミエッジが観測され、これは薄膜が金属的電子状態を持つことを示している。共鳴光電子分光の測定の結果、伝導帯のスペクトル強度はTi 3dの光イオン化断面積特有の共鳴を示した。これより、TiO結晶に対する理論計算の予想通り、TiOの伝導帯は主としてTi 3dより成ることが分かった。伝導帯の二次元バンド構造の測定の結果、伝導帯を構成する準位はフェルミ準位を横切ることが示され、理論計算の予想通り伝導帯は部分的に占有された金属的準位であることが実証された。
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