細胞膜に存在するイオンチャンネルは生体において情報伝達を司り、生体の恒常性維持に寄与している。イオンチャンネルの情報トランスデューサー機能はセンシングデバイス素子として材料分野でも注目され、その作用機序の解明が求められている。本研究ではイオンチャンネル機能を示す人工膜を構築し、その作用機序解明に資することを目標とした。 まずイオンチャンネルを構成するイオノフォアとして、作用機序解明には単一分子でチャンネル機能を発現して種々の構造修飾が可能である人工イオノフォアが有利なことから、これらの条件を満たす人工イオノフォアとして報告されているクラウンエーテル誘導体及びカリックス誘導体の合成を試みた。種々の合成ルートを検討して改良合成法を探索した結果、比較的大きなスケールで目的のイオノフォアを合成できるルートを見いだすことができた。 次に膜構築分子として、イオノフォアがイオンチャンネル機能を発現するには脂質二分子膜に近い物性を示す膜構築分子が必要であるため、ホスホコリン、オリゴエチレングリコール、アルキルチオールからなる膜構築分子の合成を試みた。種々のホスホコリン誘導体合成法を検討した結果、塩化ホスホリルを用いてオリゴエチレングリコール誘導体とコリンを反応させることによって目的とするホスホコリンとチオールを末端に有する膜構築分子を得ることができた。合成した膜構築分子を用いた自己集合膜は、タンパク質非特異吸着を抑制することを見いだしている。 人工膜によるイオンチャンネル機能発現は達せられていないが、ここで合成した膜構築分子は再構成膜材料等、種々のバイオコンパチブル材料として展開できると考えている。
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