研究課題
ヒト由来のcystathionine β-synthase(CBS)は、セリンとホモシステインからシスタチオニンを合成する酵素で、ヒトやネズミの肝臓、脳に存在する。硫黄を含む化合物の代謝経路において、ホモシステインはメチオニン生合成とシスタチオニンを経由するグルタチオン生合成経路の分岐点に存在し、CBSは両者のバランスを取る上で重要な酵素である。実際、遺伝的欠陥などによりCBSの機能が低下するとホモシステイン濃度が上昇し、知的障害、心疾患などの危険因子になることが知られている。CBSは、(1)触媒機能に必要なビタミンB6以外にヘムを持つ点(2)C-末端にS-アデノシルメチオニンと結合し、活性の制御を行うCBSドメインを持つ点において構造的にユニークであり、申請者は、CBSの機能と構造相関について考察することを本研究の目的とした。平成18年度において、申請者は、ヘムのプロピオン酸側鎖の近傍に変異を施すと活性が低下することを示し、ヘム近傍が適切な構造を持つことが最大限の活性を示す上で重要であることを見いだした。これは、変異がビタミンB6とヘムとの間に存在するヘリックスを動かしたためではないかと現段階では推察している。また、ヘム鉄のレドックス変化に伴って活性も変化することを示し、ヘム近傍に位置するアミノ酸残基はヘム鉄のレドックスポテンシャルを適正に保つ上でも重要である可能性を示唆した。つまり、CBSが酸化的状況におかれている時には、ヘム鉄は3価であり、CBS活性は高い。結果として、ホモシステインはシスタチオニンを介して生体内で還元剤として働きうるグルタチオンを合成するように仕向けられているのではないかと推測している。これらの結果から、ヘムはCBSの活性を制御する役割を持っているのではないかと推測される。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (1件)
Kinetics, and Catalysis Letters, 89(1)
ページ: 21-28