今年度の研究目的は、研究の第3段階として、本法を多原子イオンを含む系に適用できるように計算コードの開発を行うことである。溶融塩の実用的用途の一つとして期待されているシステムに、高温作動型燃料電池の電解質があり、具体的には溶融炭酸塩が挙げられる。炭酸イオンは炭素原子と酸素原子からなる多原子イオンであり、回転の自由度を有するため、熱伝導率を評価する式に、回転の運動エネルギーを考慮する必要がある。しかしながら、これまでの報告では多原子イオンを含む系への適用例がなく、適切な表式の検討、計算コードの開発、適用可能性の検討などの取組が必要である。 そこで、実用的展開として今年度はこれらの問題に取り組んで多原子イオンを含む系への拡張を図った。まず、基本的な定式化と計算コードの開発に取り組んで手法の確立を試みた。特に、信頼性の高い実験値の得られている溶融塩系の一つである溶融硝酸ナトリウムへの適用を試みた。これらの系について、温度や密度依存性などを調べて単成分系の結果と比較し議論した。得られた成果は、分子シミュレーション討論会と液化学シンポジウムにて口頭発表の予定であり、併せて論文投稿の準備中である。
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