研究概要 |
逆スピネル型酸化物Zn_2TiO_4のTiの一部をTaで置換すると(Zn_<2-x/2>Ti_<1-x>Ta_xO_4)陽イオン空孔が生成し,酸化物イオン伝導が発現する.本研究では昨年度に引き続き,構造および電気化学的知見からイオン伝導機構,とくに陽イオン空孔とイオン伝導の発現との関係を明らかにすることを目的とした. 昨年度の実験では,Taの他にAlを同時に置換することによって陽イオン空孔を形成しない系を合成し,その電気化学的性質から陽イオン空孔が必要であることを明らかにしたが,本年度は角度分散型の中性子回折実験を行い,その欠陥構造を調べた.その結果Taのみ置換した系とAlも同時に添加した系では,基本的に酸素4面体は同じで,酸素8面体の欠陥構造のみが異なることがわかった.このことから酸化物イオン伝導には8面体サイトに形成する陽イオン空孔が必要であることが確かめられた. また,Taの置換量は一定にしてAlの添加量によって空孔濃度を制御した系を合成し,そのイオン伝導率の空孔濃度依存性を調べたところ,Taのみを置換して空孔濃度を制御した系のものとほぼ一致した.したがって,酸化物イオン伝導を支配しているものはTaの置換ではなく,本質的に陽イオン空孔であることがわかった. さらに様々な系の酸化物イオン伝導率を陽イオン空孔濃度に対してプロットしたところ,イオン伝導率は陽イオン空孔のべき状に比例して増加するものの,パーコレーションで観測されるような閾値は存在しなかった.このことから,最初に酸化物イオンが動き出すためには陽イオン空孔が必要であるが,陽イオン空孔側に酸化物イオンが移動した後には空孔機構的に酸化物イオンが移動することがわかった. 本研究における一連の実験によって陽イオン空孔が酸化物イオン伝導を支配するという特異な系のイオン伝導の特徴が明らかになった.
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