環境制御NMR法による高分子の結晶化機構に関する研究を行うために本年度は下記のような結果を得た。 1)高感度プローブの開発 従来の10mm径のコイルでは温度分布が大きく、それによる運動や構造の分布が得られる結果に反映されてしまうためにできるだけ細い径での試料管を利用できるようにプローブの開発を行った。コイル径を細くすると試料の絶対量が少なくなるが、フィリングファクターの向上やパルス幅を短くできるために逆に感度を向上する因子もあるため、試料の量の減少分を相殺できるようにプローブの設計を行った。その結果、5mm径のコイルを用いることで、約30mgの試料を高感度で測定することができた。パルス幅は1μsであり、信号の定量1生も十分であった。 2)MXD6ナイロンの結晶化 MXD6ナイロンの溶融結晶化を160℃から210℃の温度範囲で行った。パルスNMR測定と偏光顕微鏡観察の結果結晶化速度は170℃で最も速いことがわかった。偏光顕微鏡観察の結果では170℃の結晶化においてマルテーゼクロスの球晶が観察されたが、210℃では球晶内が複雑な構造をしたものが観察された。パルスNMRの測定結果から、結晶化機構において170℃では球晶成長が1次元的に生じており、210℃では2次元的に生じていることがわかった。このことから、170℃では観察試料内で平面的に球晶が生成しているが、210℃では試料の暑さ方向においても結晶成長が起こり、そのために偏光顕微鏡において高温での球晶が複雑な構造をしていることが明らかになった。 結晶化の過程を詳細に検討するために固体高分解能NMR測定を行った。結晶化の進行に伴い、スペクトルの各ピークは線幅が細くなり、構造の分布がなくなることが明らかになった。さらに、高温の結晶化ではメチレン炭素のピーク位置が顕著にシフトした。このことは結晶化に伴い、コンホメーションの変化が生じていることを意味する。最も安定な結晶のコンホメーションを考慮すると、この化学シフト変化を合理的に説明できることがわかった。さらに、電子顕微鏡観察の結果をふまえMXD6の結晶化機構を提案した。
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