本研究は、制御された表面構造・表面形態をもつ有機薄膜分子を基板として用い、それがタンパク質結晶の配向にどのような影響を及ぼすかを明らかとすることを目的とした。特に本年度においては、タンパク結晶の配向メカニズムの解析を進めつつ、新たな有機薄膜基板の開拓を行った。これと同時に、「基板の基板」となる材料についても工夫を行った。さらには、これらの基板の大気・溶液中での安定性の検証ならびに有機基板を他の生体物質の結晶化にも応用することも試みた。以下に具体的な研究成果を示す。 1.脂肪酸薄膜上におけるタンパク質結晶配向メカニズムの解明 長さの異なる脂肪酸を用いることにより、脂肪酸分子の長さと配向タンパク結晶の核形成に大きな関係があることが示された(Crystal Growth & Design、国際結晶成長学会(ICCG)等)。また、グラファイト上に作製した配向の異なる薄膜上を用いた研究により、分子配向も重要な役割を示すことを明らかとした(日本物理学会、国際生体分子結晶成長学会等(ICCBM))。 2.新たな構造を持つ有機薄膜の作製 化合物半導体基板上にベヘン酸・ベヘン酸カルシウムを作製し、その微細構造を観察し、異方性をもつフラクタル上の島状の構造をもつ薄膜がえられることを示した(日本結品成長学会等)。また、きわめて薄い酸化膜を持ったSiをLB法における基板として用いることによりSiのステップ高さの段差を持つ脂肪酸薄膜を作製することに成功した。この基板を用いた結果については現在検討中である。 3.大気中・溶液中における脂肪酸薄膜の安定性の検討 脂肪酸薄膜の溶液中での観察に加え大気中では、その湿度が大きな影響を与えることを見出した。 4.脂肪酸薄膜上に核形成した炭酸カルシウムの研究 本研究で作製した有機基板を用いることにより、炭酸カルシウムの多形制御を試みた(日本物理学会等、投稿準備中)。
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