本研究では、(a)制御された表面構造・表面形態(トポグラフィー)をもつ有機薄膜分子を基板として用い、(b)その基板上にタンパク分子が吸着する過程並びにその量、さらには溶媒分子も含めどのような界面構造を形成するかに注目しながら、(c)タンパク質結晶の個数、配向、多形にどのような影響を及ぼすかを明らかとすることを目的とし研究を行った。 その結果、(1)脂肪酸薄膜基板上でリゾチームがエピタキシャル成長を起こし、その発現には脂肪酸分子の長さ・配向に強く依存し、また溶液中にCOOHを含んだ分子(酢酸等)が必要であることの発見、(2)固体表面へのタンパク質吸着過程のFT-IRによる測定法の確立がなされた。これに加え、(3)これまで用いてきたリゾチーム/真空蒸着脂肪酸膜/層状物質以外の組み合わせを試みることによりいくつかの新たな知見を得ることに成功した。脂肪酸薄膜上にCaCO_3を結晶化させることによりその核形成頻度や多形を制御できることはその一例である。残念ながら当初の目的であるところのこれらの現象を分子レベルで完全に解き明かすというレベルにはいたってはいないが、研究実績実績にも記したマクロボンドを用いた解析は有望な手法であり、今後とも解析を進めていきたい。この一連の研究により、構造解析に適したより高品質な方位のそろった結晶の育成が可能となり、将来的には複数のタンパク質と低分子材料との組み合わせによる新たな機能性材料の開発のための基礎的なデータとなることが期待できる。
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