研究概要 |
1.小角入射電子線励起X線発光分光(GIEXES : Grazing Incidence Electron-induced X-ray Emission Spectroscopy)装置の分析エネルギー範囲を軟X線領域まで拡張するために,分光系を新たに開発した。この結果,70°までのブラッグ角を設定することができ,O Kα線(525eV)を化学状態分析に十分な高分解能で測定することが可能となった。また,開発したX線検出器位置調整機構を組み込むことで,X線分光器の調整に要する時間が大幅に短縮され,迅速な分析が可能となった。 2.GIEXES装置用測定・データ処理プログラムを開発した。また,深さ方向分析の指標を与えるモンテカルロ・シミュレーションプログラムを開発した。 3.完成したGIEXES装置を使用して,まず,鉄金属表面の酸化状態を分析した。入射電子線エネルギーを変化させることで深さ方向分析を行った。Lα線に対するLβ線の強度比に着目し,鉄金属からの信号強度に対する表面酸化物層からの信号強度の比を算出した。これらの値を,モンテカルロ・シミュレーションにより計算した値と比較することで,表面酸化物層の厚さを評価することができた。LaSi_x/Si(100)の熱酸化表面の分析においては,X線スペクトルのピークフィットプログラムも開発した。これにより,表面のLaシリケート層からとSi基板からのX線スペクトル成分の大きさを定量的に評価することが可能となった。 4.以上のとおり,GIEXES装置本体,ならびに,測定・データ解析システムをほぼ完成することができた。さらに,GIEXESが数十ナノメートルの深さまでの化学状態分析に極めて有用であることを実証できた。
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