STMの探針試料ギャップの非線形光学特性を利用することにより、非常に微小な光源を実現できれば、これを用いた顕微分光測定手法や微細な物質操作が可能になると考えられる。しかし、探針直下での光学非線形現象については、その機構を含め、いまだに明らかでないことが多い。そこで本研究ではSTM探針直下の光学非線形効果の性質を詳しく調べ、効率的な非線形光発生のための種々の条件を明らかにすることと、モデル物質とする分子膜を対象に和周波発生光、差周波発生光によるSTM探針微小光源による局所的な構造変化を誘起し、物質操作技術としての有効性を検証することを目的としている。 今年度は以下のことを行った。 昨年度に引き続き、STMへのレーザー照射系の調整を行い、光整流電流の検出によって探針直下での非線形効果の大きさを測定した。その結果、みかけの電場増強効果に探針の状態によって大きなばらつきが生じることがわかり、先端が先鋭であるだけではなく、先端形状および状態が十分安定なSTM探針を使用することが探針直下の非線形光学効果の利用には不可欠であることが結論された。 カーボンナノチューブ(CNT)はその形状や機械的な強さという特性から、上記のようなSTM探針として現在の目的に非常に適していると考えられる。CNTを用いたSTM探針非線形光学効果の特性を調べるために、CNT先端での電場増強効果を光整流電流を用いて実際に評価する目的でCNTのSTM観察を試みた。CNTを再現性よく観察するためには原子オーダーで平坦な表面が必須であるが、その基板としてHOPGおよび金蒸着膜を用いた。どちらも十分な平坦性が得られたが、HOPGではグラフェンシートの端などで特異的な電子状態が観察され、CNTと混同しやすいコントラストが生じるため、上記の目的には金蒸着膜が適していることがわかった。
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