STMの探針試料間の非線形光学特性を利用することにより、非常に微小な光源を実現できれば、これを用いた顕微分光測定や微細な物質操作が可能になると考えられる。そこで本研究ではSTM探針直下の光学非線形効果を調べ、効率的な非線形光発生のための条件を明らかにすることと、STM探針微小光源の物質操作法としての有効性を探ることを目的とした。 1)レーザーをSTMと組み合わせ、探針試料問で効率的に非線形効果を発生させるためのシステムを構築し、調整した。 2)STM探針試料問での電場増強の定量的な評価を、実際の系に近い形状や物質配置に対して解析に求めることは困難である。そこで有限差分時間領域法(FDTD法)を用いた数値計算を行い、大きな増強が期待できること、増強が強くなる波長を制御できる可能性があることが確認できた。 3)構築したSTMへのレーザー照射系の調整を行い、光整流電流の検出によって探針直下での非線形効果の大きさを測定した結果、みかけの電場増強効果に探針の状態によって非常に大きなばらつきが生じることがわかり、先鋭であるだけではなく、形状および状態が十分安定な探針を使用することが探針直下の非線形光学効果の利用には不可欠であることが結論された。 4)カーボンナノチューブ(CNT)はその形状や機械的な強度から、上記のような目的に探針材料として非常に適していると考えられる。CNTを用いたSTM探針非線形光学効果の特性を調べるために、CNT先端での電場増強効果を評価する目的でCNTのSTM観察を試みた。CNTを再現性よく観察するための基板としてHOPGおよび金蒸着膜を用いた。どちらも十分な平坦性が得られたが、HOPGではグラフェンシートの端などで特異的な電子状態が観察され、CNTと混同しやすいコントラストが生じるため、上記の目的には金蒸着膜が適していることがわかった。 5)強い電子励起下での分子の振る舞いを調べる目的で、フラーレン薄膜にSTM探針からの正孔注入をおこない、電子注入の場合と同様に分子の重合・解離が生じることがわかった。反応の機構はイオン反応モデルで説明できることがわかった。
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