非ラザフォード共鳴散乱法(non-Rutherford elastic resonance scattering = NRERS)による酸化物薄膜の酸素含有量の高精度な評価手段を確立することを目的として、酸素量の既知な種々の酸化物試料に対し、測定結果に影響を与える可能性が考えられる様々なパラメータを変化させて酸素共鳴シグナルの強度比較を行なった。 (1)結晶性(非晶質/単結晶):ランダム配置でNRERS測定を行なった場合、同一の組成SiO_2をもつ非晶質(石英ガラス)と単結晶(水晶)の試料を比較すると、酸素共鳴シグナル強度は同一であった。すなわち完全な非晶質と完全な結晶の間ではNRERS散乱断面積の差はないと考えられる。しかし後に述べるように、同一組成の結晶試料であっても結晶性の優劣により共鳴シグナル強度が変化する可能性がある。 (2)導電性:酸素含有量にほとんど差がなく(NRERSの検出感度以下)、かつ導電性が異なる試料として、様々な温度および真空度で還元処理されたルチル型TiO_2(001)単結晶基板およびペロブスカイト型SrTiO_3(001)単結晶基板を用意した。ランダム配置でのNRERS測定の結果、酸素共鳴シグナル強度は試料間で大きくばらついたが、共鳴強度と導電性やキャリア濃度との間には相関が見られなかった。共鳴シグナル強度を変化させる要因として各試料の結晶性の差が考えられる。実際、X線回折ωスキャン測定により各試料の結晶性の評価を行うと、共鳴シグナルが弱い試料は結晶性も低いという関係が見られた。 結論として、試料の結晶性がNRERSシグナル強度に影響する可能性がある。原因としては粒界の存在が考えられる。実際に試料を測定する際には他の結晶性評価手法(RBSチャネリング測定、X線回折測定など)を複合的に用いて酸素量の補正を行なう必要がある。
|