非ラザフォード共鳴散乱法(non-Rutherford elastic resonance scattering = NRERS)による酸化物薄膜の酸素含有量の高精度な評価手段を確立することを目指し、酸素量が既知な試料のNRERS測定を行うことによって、測定結果に影響を与える可能性が考えられる複数のパラメータについて検討した。 同一の組成SiO_2をもつ石英ガラスと水晶の間で、酸素共鳴シグナル強度は同一であった。すなわち完全な非晶質と完全な結晶の間ではNRERS散乱断面積の差はないと考えられる。一方、還元処理されたルチル型TiO_2(001)単結晶基板およびペロブスカイト型SrTiO_3(001)単結晶基板において、酸素共鳴シグナル強度は試料間で大きくばらついたが、共鳴強度と導電性やキャリア濃度との間には相関が見られなかった。以上の結果を総合すると、試料の単結晶/非晶質の差や導電性の差は共鳴シグナル強度に影響を及ぼさないと言える。 次に実際の強相関系酸化物薄膜の酸素含有量を評価し、電気磁気特性との比較を行なった。 様々な酸素分圧下で作製したペロブスカイト型Mn酸化物La_<1-x>Sr_xMnO_<3-y>薄膜の酸素含有量をNRERSにより評価したところ、酸素含有量は製膜酸素圧に対して単調増加せずにU字形の依存性を示した。酸素雰囲気中でのPLD製膜において酸素取り込み効率の悪い酸素圧が存在しうることが明らかになった。また様々な温度でArガス中アニール処理したペロブスカイト型Ru酸化物SrRuO_<3-y>薄膜試料について、酸素含有量と電気磁気特性の比較を行なった。NRERSで評価した各試料の酸素含有量は結晶構造が保持されている限りアニール温度上昇に伴って減少し、同時に電気特性も金属的から徐々に絶縁体的挙動へと移行した。以上のように、薄膜の電気特性が酸素含有量に対応して変化する様子が初めて定量的に示された。
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